村上春樹おすすめ作品ランキングTOP7

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村上春樹おすすめ作品ランキングTOP7

村上春樹さんは1979年のデビューから今日に至るまで、さまざまな表現と物語を生み出し、時には時代を作り、時には時代に逆らいながら、なおもベストセラーを生み続ける世界的な作家です。その表現力の多彩さと、よく作り込まれた物語が魅力です。村上春樹さんのおすすめの作品をランキング形式でご紹介します。

 

 

第7位.村上春樹「パン屋再襲撃」

村上春樹「パン屋再襲撃」がおすすめの理由

短編集ですが、村上春樹の文学的な背景やこれまで作品とリンクするもの、そしてこの先の原型となる作品などが集められた本です。「パン屋再襲撃」は村上さんがいかにカート・ヴォネガットやジョン・アーヴィングなどアメリカ文学の影響を受けているのかが分かる短編です。再襲撃なので、もちろん「パン屋襲撃」という短編も別に存在しています。「夢で会いましょう」という糸井重里との共著に収録されているので、そちらも読んで欲しいです。「双子と沈んだ大陸」は「1973年のピンボール」に登場する208と209の双子の話で、鼠三部作が好きな者には新たな喪失感とため息の出る短編です。「ねじまき鳥と火曜日の女たち」は8年後に「ねじまき鳥クロニクル」になる短編で、村上春樹が物語をどう熟成し、長編をかき上げるのかを知る手掛かりになります。いろいろ詰まった宝石箱のような短編集です。

 

 

第6位.村上春樹「蛍・納屋を焼く・その他の短編」

村上春樹「蛍・納屋を焼く・その他の短編」がおすすめの理由

初期の短編集です。この本に収録されてある短編を読むと、なるほど村上春樹は純文学作家であると感じます。文壇や文学通の一部は、村上春樹批判が大好きで、決して純文学作家としては認めませんが、少なくともこれらの作品に娯楽性らしきものはなく、どれも高い芸術性が感じられます。ベストセラー作家だから村上春樹は大衆作家だと言う人にぜひとも読んで欲しい短編集です。特に「蛍」には堀辰雄が描いたサナトリウム文学の欠片がちりばめてあるし、背後には日本古来の宗教感のようなものも感じられます。また「納屋を焼く」では、例によって女は消えてしまいますが、いったい納屋とは何の象徴だったのか、そこには文学のメタファーがありますし、全体的にニヒリズムのような冷徹さも感じられます。そんな村上春樹の懐の深さを感じさせる短編集だと思います。

 

 

第5位.村上春樹「海辺のカフカ」

村上春樹「海辺のカフカ」がおすすめの理由

かなり実験的な作品でもあり、途中で二人称という珍しい書き方がされています。ジェイ・マキナニーの「ブライト・ライツ,ビッグシティ」の影響かもしれません。暴力や戦争といった「ねじまき鳥クロニクル」以降の村上作品でよく取り上げられる題材と、初期作品である「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」との共通性を指摘されていますが、ファンタジー性よりもむしろユング的な精神分析の要素が強いように思われます。それは村上さんがユング派心理学者の河合隼雄さんとの対談や交流などから着想したものかもしれません。例によって音楽や文学作品などのガジェットが豊富にちりばめてあり、それらの基礎的な素養があればより楽しめるだろうと思いますが、たとえば今時ロルカを知っている人がどれだけいるのか、読み込むのにはなかなかハードルが高いものの、それを気にしなければ読みやすい作品だと思います。

 

 

第4位.村上春樹「1973年のピンボール」

村上春樹「1973年のピンボール」がおすすめの理由

なんとなく大江健三郎のパロディかと思うタイトルですが、そうではないようです。内容もまったく共通性は感じません。全共闘時代の終わりをリアルに感じさせる雰囲気があるものの、現実感が喪失した初期村上作品の特徴がはっきりと感じられる作品です。僕と鼠は処女作の「風の歌を聴け」から「羊をめぐる冒険」までの主要人物ですが、「風の歌を聴け」以上にはっきりとした形で、村上作品に共通する喪失感が描かれています。たとえば僕がピンボール台探しに熱中したとしても、それは喪失感への代償行為に過ぎません。そして208と209の双子を失ってしまいます。この双子は「双子と沈んだ大陸」という短編にも登場しますが、その短編に出てくる笠原メイという名前は「ねじまき鳥クロニクル」にも出てきます。渡辺昇はたくさんの作品に出てきます。村上さんの中ではきっとつながっているのでしょう。

 

 

第3位.村上春樹「羊をめぐる冒険」

村上春樹「羊をめぐる冒険」がおすすめの理由

いわゆる「鼠三部作」の三作目です。もっとも後に続編の「ダンス・ダンス・ダンス」が書かれるので、「僕四部作」というのが正しいのかもしれません。村上さんの初期作品において、とても重要な役割を持つ「羊男」については、評論家からファンまでいろいろと論じられてきました。村上さん本人はレイモンド・チャンドラーの「ロング・グッドバイ」からの影響を語っています。そうなると主人公はフィリップ・マーロウで、羊男はレノックスなのだろうかと考えてしまいますが、どうもそう単純ではないようです。ボーイミーツガールならぬ、出会った女の子が消え、主人公がそれを探すという展開は、その後、村上さんの定番構造になりますが、主人公、女の子、羊男がそれぞれ喪失してしまったものは何なのかを想像させる名作です。できれば「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」を先に読んで欲しいです。

 

 

第2位.村上春樹「1Q84」

村上春樹「1Q84」がおすすめの理由

おそらく2019年の時点において、村上作品中、もっとも完成度が高い小説だと思います。寓意と想像に満ちた不可思議な物語ですが、「アンダーグラウンド」執筆のための取材で感じた宗教に対する、ある種の思いが込められているのだろうと思います。基本的には村上さんの空想上の世界ですが、さきがけだけでなく、証人会もタカシマ塾もそのモチーフとなったものは十分に想像がつきますし、リトルピープルという存在も都市伝説の小さいおじさんを思い出させるなど、現実世界との接点が感じられるため、物語全体がとてもリアルな印象を受けます。タイトルからして身近な異世界を暗示しているようです。青豆と天吾の再会から、二つの月があるように世界は分岐し、境界を越えた物語を生み出したのかもしれません。現代文学を読みなれない人にはお勧めできませんが、現代日本文学の傑作のひとつだと思います。

 

 

第1位.村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」

村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」がおすすめの理由

「世界の終わり」と「ハードボイルド・ワンダーランド」という二つの物語が、交互に描かれたアダルト・ファンタジーのような雰囲気のある小説です。どちらの物語も架空の世界が綿密に構築されていて、さまざまなガジェットがちりばめられ、寓意に満ちた内容になっています。そもそもは村上自身の「街と、その不確かな壁」という小説を大幅に書きかえたものですが、内容的にも作品としてはまったくの別物といえます。本人はうまく書ききれず、少し不満足さが残っているようですが、後の「1Q84」などの精緻さはないものの、逆に勢いに満ちた描写や完全に溶け合わずに残った澱のようなものが感じられ、その微妙なバランスの上に成り立った面白い作品だと思います。初めて村上春樹を読む人にはお勧めしませんが、ミハエル・エンデの物語が好きな方には読んで欲しい本です。

 

 

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